ツンデレ喫茶はいかにしてツンデレ喫茶足り得るか

 個人的に思っていることがあって、なにかって言うとツンデレ喫茶のツンデレってツンはあるけれどデレは微塵もないよねっていうただそれだけなんですが。
 ツンデレカフェの様態についてはあんまり明るくないんですけど、又聞きした情報などから察するに「態度の悪い店員」と「帰り際にまた来るよう要請される」っていうこの二点を満たしておけばイナフみたいで。 それ聞いて以来なにか違うなともやもやした感じがしていたんですが、つい最近その謎が解けました。 ツンデレ喫茶の店員はデレを表現していない。 つまり彼女達には愛がない。


 たとえばメイド喫茶ならばそこにメイドの格好をした店員を配置すればそれで済みますが、これはあくまでもメイドというのがある職業およびその制服を指す名詞だからであって、これはナース喫茶だろうがネコ耳喫茶だろうが和服喫茶だろうがゴスロリ喫茶だろうが、衣装さえ調達できれば簡単に解決する問題です。 でもことツンデレ喫茶の場合はこうはいかない。
 なにが問題かって言うと、ツンデレとは「普段はツンツンしているけれど自分の前ではデレデレ」という様態を指す言葉であるという点。 これがあればツンデレだと具体的に提示できる衣装や小道具がない以上、それを再現しようと思ったら「ツン」と「デレ」という感情を表現する必要があるわけで。 「ツン」は単に愛想悪くしてれば達成できる要素ですが、それに対して「デレ」は対象に恋愛感情やそれに近いなにかを抱かなければ達成できない要素であって、ツンデレ喫茶の経営者および店員である女性はそこのところを大きく勘違いしている。
 ツンデレ喫茶では帰り際に「アンタなんか来てくれなくてもいいんだからね」などと暗に再度の来店を要求されると聞いており、これを「デレ」だと捉える向きがあるとも聞いていますが、しかしこれはどう考えても違う。 彼女達は通常の喫茶店での「ありがとうございました」の代わりにそれを言っているのであって、それがデレなのかっていうとだいぶ違う。 それで言うなら普通の店の店員は常にデレています。 駅前の喫茶店はデレデレ喫茶。 商店街の回転寿司屋はデレデレ回転寿司屋。 コーナンとかデレデレホームセンターですよ。 ただのアホじゃないか。


 「これまで愛想の悪かった店員さんが、最後にすこし優しい言葉をかけてくれるのがいい」というマゾい意見もあり、それがツンデレなのだという主張もあるでしょうが、しかし考えてもみてください。 近所のファミレスでずっと愛想の悪かった店員が、お会計のあとに急に愛想が良くなって「また来てくださいね」とか言ったら腹立つでしょう。 自分なら二度と行きません。
 ツンデレの醍醐味というのはいつもはツンツンしているあの娘が、実は自分に惚れていてデレデレしてくれるという点なのであって、一丁前にツンツンしているくせに、肝心のデレはたまに発する儀礼的な社交辞令の一つや二つだけというのは明らかにおかしい。 もしもその店員が客である自分に恋をしているのだとすればその状況も甘んじて受け入れられるかもしれませんが、しかし客は自分だけではなく、ツンデレ喫茶におけるツンデレを真に演出し、全ての客に満足感を提供するためには、店員である彼女達は全ての客に対して恋愛感情を抱く必要があるわけです。 これはそもそも達成不可能な目標であり、万が一それが実現できたとしても、今度は客の側がその恋愛感情は嘘っぱちだと疑うようになりこれではもう全てが台無しです。


 ことほど然様に難解なツンデレ喫茶ですが、ツンとデレの対象を客以外に設定する。 たとえば店長に対して店員全てがツンデレというような状態を維持することができれば、それはツンデレ喫茶として成立するのではないでしょうか。
 普段はやたらひどい扱いを受ける店長だが、しかしひとたび店長が店員の髪型などを褒めれば彼女はほらみるみる顔が真っ赤に。
 客ひとりひとりに対する似非ツンデレ的対応は無くなりますが、しかしツンデレという様態を実際に目の当たりにすることは可能です。 客の側から干渉できるのは店長と店員の仲をからかうことぐらいですが、それで極端な反応が返ってきたりしたらそれはそれですごく楽しいことのような気がしますし、店内は和気藹々とした雰囲気に包まれたりもするのではないでしょうか。
 帰り際の「来てくれなくてもいいんだからね」は儀礼的な挨拶として親しまれてもよさそうですし、客に対しては普通の接客で許される以上、店員の態度に怒りだすという気持ちはわからなくもないが落ち着けよ的な客も減ることでしょう。


 そしてこれを発展させることでヤンデレ喫茶の実現も可能となります。
 ヤンデレという様態はツンデレ以上に難解な物であり、正直その概念は何度聞いても理解できるものではありませんでしたが、断片的な情報から察するにヤンデレと言うのは、普段は普通に振舞いながらもしかしどこかしらが狂っていて、それで何者かにある種異常なほどの愛情を抱いているというおおよそお近づきになりたくないタイプの存在のようです。
 ヤンデレは最終的に刃傷沙汰に発展して完結するという話も聞きますが、しかし客に刃物を突きつけるのはさすがにちょっとまずいような気もするので、従来の客対店員の構図を維持したままではどうしても中途半端なものにならざるを得ないのではないでしょうか。
 しかしこれが店員対店員の構図になったとき、これはもう双方合意の上なのですから刃物解禁のノールールヤンデレ合戦が可能となり、客達はそれを傍らから眺めることで、自分に気外が及ぶ恐れのないヤンデレという画面の中にしかいなかったアニマの具現を体感できるわけです。


 案外いけるんじゃないか、これ。