セーフティーバント

 冬の日の放課後、少女は一人、誰もいない教室でカップを揺らす。
 前から五番目、窓際の席。
 ほのかに香る湯気の向こう、憂鬱な目の少女が冬枯れの町を見下ろしている。
 空には暗い鉛色の雲。 溶け残る雪は日陰を覆い、襟を立てた人の群れが、白い尾を引き行き過ぎる。
 そっと、指を伸ばせば冷たい硝子。 薄膜は冬を隔て、その手が届くことはない。
 目を伏せ静かに吐く息は、透明。


 少女はカップを傾ける。
 前から五番目。 窓際の、彼の席で。
 

 『セーラー服でティータイムを。 〜晩冬〜』


 やがて、冬の日は去る。
 しかして春は、まだ遠い――